ロングショートについてのお話 その⑦-7【入門編を終えるにあたって①】
お知らせ【ブログを移転しました】
このブログでは、基本的な統計知識を使ってヘッジ取引の入門レベルの内容をひと通り説明してみました。
当初は理論的な内容を適当にまとめて1~2か月くらいで終わらせるつもりでしたが、トレーダーの立場として、やはり前提となる理論が間違っている以上、教科書的な説明だけでは不十分だと思い、ついつい余計なことまで書いてしまいました(笑)
なるべくわかりやすく書こうと心がけましたが、
いざやってみるとなかなか難しい作業でした。
理論としては間違っていたことも書いてしまったかもしれませんが、「理論は大事だけど、依存し過ぎてしまうことの危険性」と「前提となる理論が間違っているという事実」を誰かが伝えないといけないと思ったので、批判を覚悟でいろいろ書くことにしました。
賛否両論あるかもしれませんが、それはそれで喜ばしいことです。
私にとっては、今までインプットした知識や実体験を第三者にアウトプットする作業はとても楽しい経験でしたが、やはり性格上、あまり目立たず、地味にトレードやっているほうが向いているのかもしれません。。。
とりあえず、今まで書いた要点を以下にまとめ、このブログはいったん終了することにします。最後の備忘録として、現時点で書き残しておきたいことを思いつくかぎり書いておきます。次に必要としてくれる誰かのために。。。
長くなります、もちろん余計なことも書きます!
だから2回に分けて書きます(笑)
どうぞ最後までお付き合いください。
【今まで書いた要点の復習】
サヤ取り投資の要点について、【理論】【現実】【改善策】を以下にまとめておきます(【ロングショート③】と【ロングショート⑤】がこのブログの中核です)。
1. サヤ取り投資(ストラドル)は裁定取引(アービトラージ)ではない
【理論】
サヤ取り投資は異なる2つ以上の銘柄ペアを、一方をロング(買い建て)、他方をショート(売り建て:空売り)し、同時に組み合わせて売買する。そのため、ロングまたはショートした双方の利益と損失を相殺し、相場変動によるリスクをヘッジする取引である(すなわち、一方の銘柄に対し、ペアとなる銘柄はヘッジ(保険)機能を果たす)。
そのため、株式市場全体がある方向に動くマーケットリスクを、ヘッジ機能を用いて中立的(マーケットニュートラル)にし、いかなる相場状況であっても絶対的にプラスリターンを目指す投資戦略である(【ロングショート①】参照)。
【現実】
「両建てしたポジションは、極論を言えばロング方向とショート方向にそれぞれ片張り投資をしているのと大して変わらない」。
裁定取引は、一物一価の性質上、市場の非効率性を「α」とし、マーケット変動による「β」を完全に排除した合理性のある投資方法である。
その一方で、サヤ取り投資はニ物二価の性質上、価格差の拡大・収斂はあくまでも確率・統計によって「α」の方向性の分析をしているにすぎない。さらに、βリスクを完全に排除できないため、100%合理性のある投資方法とは言えない(【サヤ取り投資がうまく行かない理由①】参照)。
【改善策】
比較的高い相関性を担保とした取引に過ぎないため、2つの異なる銘柄の価格差は平均値に向かって必ずしも収斂する保証はない。価格差が一定水準に拡大した場合は、ただちに該当する銘柄ペアの取引を中断すること!(【サヤ取りブログ~ロングショートを用いたヘッジ取引~】2.参照)
確率論による手法である以上は、「銘柄分散」と「試行回数を増やす」ことで、ポートフォリオ全体でトータルのプラスリターンを狙うくらいしか改善策は存在しないと考える。
サヤ取り(ストラドル)の「α」と裁定取引(アービトラージ)の「α」の本質は異なる点に注意のこと!
2. サヤ取り投資はβリスクを完全に排除できない投資方法である
【理論】
できるだけ標準偏差の同じくらいの銘柄を組み合わせる。そうでなければ、βリスクを排除しきれず、結果としてボラティリティの大きい銘柄の片張り投資と変わらなくなってしまう(【ロングショート③】ステップ3-9)。
【現実】
αを追及するサヤ取り投資も、結局のところβをニュートラル化できないため、マーケットの変動リスク(βリスク)を完全に排除することはできない(【相関係数の弱点とβ値の重要性】参照)。
【改善策】
銘柄をできるだけ分散し、ポートフォリオ全体でβ値を極力ニュートラル化することが改善策になると考える。
3. 「ロングショート」と「レラティブバリュー」は完全なるマーケットニュートラル投資法ではない
【理論】
「ロングショート」、「レラティブバリュー」いずれの投資方法もマーケットニュートラルの考え方に基づいているため、アクティブ投資に比べてリスクが少ない投資方法である。
【現実】
「ロングショート」→「ボラティリティの高い急激な上昇相場と、大暴落には対応しきれない」
「レラティブバリュー」→「ボラティリティの低いレンジ相場では戦略がうまく機能しにくい」
【改善策】
「ロングショート」と「レラティブバリュー」の長所と短所を組み合わせることにより、ポートフォリオ全体でβ値を極力ニュートラル化することが改善策になると考える(【ロングショート型とレラティブバリュー型】参照)
4. 価格差の分析を行うときは、複数の指標を組み合わせること。
【理論】
確率・統計に基づいたテクニカル分析は、マーケット分析を行う際に非常に有力なツールとなる。
【現実】
確率・統計によって算出された数値そのものは正しいが、その数値は必ずしも実践では正しくないことが多い。
【改善策】
テクニカル分析は万能なツールではない。たしかに、確率・統計はマーケットアプローチの1つの手段となり得るが、依存し、過信すべきではない(【サヤ取り投資がうまく行かない理由②】参照)。
ベキ分布にしたがうとされている現実のマーケットにおいて、私たちは正規分布を前提としてマーケット分析を行っている点を心に留めておくべきである(【逆張り投資の注意点】参照)。
テクニカル分析を行う投資家にとっては、指標を単体で使うことに効果がないことは既に承知済だと思うが、自らが妥協できる条件が最低2つ以上揃うまでは安易にエントリーすべきではないと考える。
どんな条件で取引するにせよ、結果については、「マーケットは常に正しい、間違っているのは投資家自身である」ということを忘れずに!
【確率論は「数」の勝負である】
なんだかエラそうにこのブログを書いてきましたが、私も結局のところ100%の確率で収益を上げられる天才トレーダーではありません。
ですから日々、頭に汗をかきながら端末を叩いてポジションをあれこれ悩みながら設計しています。
私が少しでも銘柄の分散数を増やしたほうがいいと言ったのは、確率論は「数」の勝負であるという経験則からです。つまり「トータルで損益がプラスになればOK」という発想があるからです(【RPGを使ってポートフォリオの本質を考えてみる】参照)。ですから、勝率はあまり気にしません。
1本1本の「木」には必ず何らかのクセがあって、どの銘柄ペアとどの銘柄ペアを組み合わせればお互いの弱点を補完しながら収益化できるのか。さらには、どの銘柄ペアグループとどの銘柄ペアグループを組み合わせれば収益化できるのか、日々の業務の中で仮説と検証を繰り返しています。
「木を見て森を見ず」という言葉があるように、「木(個々の銘柄ペア)」の損益はあまり気にしません。うまく行かなければドライにロスカットする、ただそれだけ。プログラムが自動的に執行してくれます[1]。
それよりも「森(ポートフォリオ全体)」を見てプラスになっていれば、「あ、これで自分の仮説は正しかったんだな」と判断しています(【システム④(ステップ4-1.)参照】)。
また、トレードの際に心がけていることが2つあります。
1つは、「30」銘柄くらいに分散し、設定したアルゴリズムで「30」回くらいの運用テストを行うようにしています。
統計上、「正規分布である」と仮定するためには、最低限「30」の標本データが必要と考えられます。この「30」という数字は、統計学では「マジックナンバー」と呼ばれており、様々な結果を導き出すための非常に重要(最低限必要)な数字となっています(「マーケットは正規分布ではない」と書いておきながら「おいおいw」と言われてしまいそうですが、結局このような分析手法以外に妥協できるアプローチ方法が無いのだから仕方ありません)。
結局、確率論の勝負ですから、「銘柄の分散数」と「試行回数」を増やしていくしかないわけです。
銘柄ペアの1セットや1回の試行回数が「点」とするならば、分散する銘柄ペア数や運用テストの試行回数は「点+点+点+点+点…」のようになり、点をつないで行くと面になります。この面を作るために私は「30」という数字を意識しています。「木」ではなく、「森」を見るのと同じように、ポートフォリオの本質は「点」だったものを「面」と捉えるための概念だと考えます(トレード以外の商売でもこの考え方は大切にしています)。
30銘柄に分散する投資金額がない場合であっても、銘柄ペアを分散し、1つ銘柄の損失をポートフォリオ全体でカバーできるようなポジション設計をイメージしてみてください。
1度大きな損失を出してしまうと、元の状態に回復させるのは本当に大変な作業です。ですから、『「増やす」よりも「減らさないように」投資するという考え方そのもの』が、結局のところ、ゲームを長く続けるコツだと思っています。難しい技術は必要ありません。これは私の経験則です。
もう1つは、投資する銘柄ペアは等価金額に近いペア同士を組み合わせています。さらに重複する銘柄はどちらかを除外するようにしています。
投資する銘柄ペアを等価金額に合わせる理由は、特定の銘柄ペアに偏りがありすぎると、特定の銘柄ペアの比率が大きすぎて、急激な損失が発生した場合、ポートフォリオ全体でカバーしきれないためです。
重複する銘柄を除外する理由は上記と同じように、突発的に生じる個別銘柄特有のリスクを一定水準に保ち、ニュートラル化させるためです(【システム④(ステップ4-1.)参照】)。上記と同様に、特定の銘柄ペアに偏りがありすぎると、特定の銘柄ペアの損失比率が大きすぎて、ポートフォリオ全体でカバーしきれないためです。
確率・統計上、銘柄を分散し、試行回数を増やせば、勝率は大数の法則にしたがい、50%に近くなって行きます(理論上は。。。)。
ですから、勝率は50%程度でかまいません、それよりも確実に『「利益」-「損失」=「+」』となっていることのほうがよほど大事だと考えます[2]。
・ロング銘柄が「損失」でも、ショート銘柄が「利益」ならばOK
・ロング銘柄グループが「損失」でも、ショート銘柄グループが「利益」ならばOK
・ロングショートグループが「損失」でも、レラティブバリューグループが「利益」ならばOK
サヤ取り投資が初心者でも簡単に儲かるようなイメージをお持ちの方に、私の本音を申し上げておきます。
そんなもんウソですよ。
アクティブ投資よりもリスクが少ない。
そんなもんウソですよ。
両建て投資が片張り投資と比較して安全な投資方法であるというのは正直なところ「正解」でもあり「不正解」でもあると思います。
たしかに取引対象の本質は違います、しかしリスクマネジメントの本質は同じだと思います。
「α」を追及する両建て投資も「β」を追及する片張り投資も、十分な銘柄分散や資金管理ができていなければ、結局のところ、どちらもリスクは大して変わらないと考えます。
これは理論という建て前を取り除いた私の本音です。
ウソだと思ったら実際に投資してみてください、私の言っていることがおわかりいただけるはずです。
[1] 私の知るかぎり、ロスカットについては女性トレーダーのほうがドライに実行できる傾向があるように思います。その一方、男性トレーダーのほうが未練たらしく、振られてもなかなか諦めきれずに銘柄のストーカーになってしまう傾向があるように思います。
たしかに女性は失恋しても、数日経つと新しい恋人を見つけて、今までの恋人のことはさっさと過去の経験に切り替えてしまう不思議な才能がありますね(笑)
もうずいぶん昔の話ですが、私が業務端末を「AUTO」→「MANUAL」モードに切り替えてロスカットの執行をためらっていたところ、ボスから「ロスカットを執行するか」それとも「荷物をまとめて出て行くか」の二者択一を迫られたことがあります、マジです(笑)。それはもう鬼のような剣幕で迫られました、「ビジネスはあなたの趣味ではない!」と。
ここで、私がマネージャーだった彼を素直に尊敬できたのは、「私が取引で損失を出した」ことではなく、「私が業務を正しく遂行できなかった」ことをしっかりと叱ってくれたからです。その後、ただちにロスカットを執行して素直に自分の過ちを認めました。
「マーケットは常に正しい」、彼はそのことを私に伝えたかったのかもしれません。
ロスカットが事務的にできるかできないか、さらには自分が決めたルールをしっかり守れるか。これが初心者と中級者の1つの分岐点だと思います。難しい技術を習得するよりも、実は簡単なところにコツがあるものですよ。もっとも、今だからエラそうに言えることですけど(笑)
[2] 勝率50%を一定期間キープできるトレーダーは正直言ってかなり優秀です。私は実際のところ、もっと勝率は低いですよ。
理由は、これはダメだなと思った銘柄ペアはさっさとロスカットして他の銘柄ペアに組み換えてしまうから負け数は必然的に多くなります(ゆえに勝率は低くなります)。逆に、勝率が高すぎるロジックを検証してみると、ロスカット基準が甘すぎたり、曖昧なためドローダウンがかなり大きい組み方をしている傾向が強いことがわかります。
私は個人的には、負けを素直に認める勝率の低いロジックのほうを好みます(損小利大は投資の基本です、うまく行っているペアで利益を伸ばせばいいんだから)。
もっとも、勝率はあまり気にする必要はありません、投資のプロで勝率を強調している人間がいれば、それはたぶん。。。これ以上は書きません。。。
※サヤ取りのようなスプレッド取引における勝率とは、ペアを1セットとしてロスカットを執行するため、2つの銘柄を同時に決済すると定義しています。
【コラム・その他】←ひまつぶしに読んでね♪
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