ロングショートについてのお話 その⑦-1【相関係数の弱点とβ値の重要性】
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さて、サヤ取りにかぎらず、投資戦略を考えるとき、それぞれのスクリーニング項目には必ず弱点があります。そのため、スクリーニング項目を増やして、「弱点を相互に補完」していく必要があります(コラム【RPGを使ってポートフォリオの本質を考えてみる】参照)。
もっとも、厳密に増やし過ぎると、今度は候補となる対象銘柄そのものが減ってしまい、分散投資ができなくなるというデメリットが生じます。このあたりのバランス感覚は投資家にとって非常に重要であるといえます。
【相関係数の弱点とβ値の重要性】
以前、【ロングショート③(ステップ2-12.)】の説明の中で、「相関係数よりもβ値のほうが大事」と書きましたが、この点を以下に補足します。
サヤ取り投資をする上で、「相関係数」の概念は最重要ファクターの1つであることはたしかです。しかしながら、「相関係数」だけでは不十分なこともたしかです。
相関係数は本来、異なる変量xとyの間に生じる相関(連動性)の度合いを測定するための統計分析手法です。そのため、変量xとyを均一化して比較する作業が必要となります。
※ 参考【相関分析と相関係数】
上の図は、異なる変量x・yのデータを均一化して比較するために、平均からのズレ(偏差)を計算して、それぞれの合計が0の値になるようにデータの加工を施したイメージ図です(【偏差】参照)。
次に、バラツキの大きさが異なるデータ同士(このブログでは「銘柄」)を「数値」(絶対値)から「比率」(相対値)に変換し、比較する作業をします。
※ 参考【相関分析と相関係数】
上の図は、異なる変量x・yのデータを均一化して比較するために、違う大きさ、違う形のデータを、同じ形に加工し直したイメージ図です。
上記2つの図を見てわかるとおり、データを加工する過程において、データの持つ本来の個性の情報が失われてしまっていることがわかります。たとえば、「象」と「犬」の大きさ、「身長」と「体重」の尺度は全く違いますが、均一化することによって、比較することが可能となります。
このように、「相関係数」は「尺度の異なるデータ同士を比較できる」、というメリットがある一方、「本来のデータが持っている個性の情報が失われてしまう」、というデメリットがあります。
したがって、単純に相関係数が高い銘柄ペアを組み合わせるだけでは、サヤ取りはうまく行かない可能性が高くなります。
そこで、「変動率」の概念を使って「相関係数」の弱点を補完する必要があります(【標準偏差】参照)。
※ 参考【正規分布】
上の図は、どちらも「相関係数」の高い銘柄ペアのイメージです。
左の図はβ値、つまり山の大きさ(変動率)が異なっている銘柄ペア、右の図はβ値が近似している銘柄ペアのイメージです。
どちらも、「相関係数」だけに注目すれば非常に相性の良い銘柄ペアですが、左の組み合わせで取引をすると、ベータリスクを排除しきれずに、青い銘柄の片張り投資をしているのと、あまり意味が変わらなくなってしまいます。
これでは、「価格差(サヤ幅)」(α)のみに注目して取引するはずのサヤ取り投資の本質が、マーケットの変動リスク(β)を受けることによって失われてしまいます。
以上の理由により、「相関係数」だけでは本来のデータスケールの判断ができないため、「β値」を併用してスクリーニング作業をする必要があると考えます(βニュートラル)。
なお、ここで用いる相関係数は「価格差」の相関、β値は「日足リターン」の相関のことを言います。
実は相関係数の落とし穴はここにあります。
一般的にサヤ取り投資で強調されている相関の高さは「価格差」で相関を取ったものですが、「日足リターン」の相関、つまりβ値も同様に高くなければサヤ取り投資は失敗に終わる可能性が高いと考えられます(例として相関係数0.9でβ値が0.5の組み合わせなど。β値が高いという表現は誤解がありますね。同じくらいに合わせるということね)。
むしろ、多くの投資家の方がスクリーニングの際に異常なほどにこだわっている「価格差の相関」は0.6~0.7程度あれば十分な気がします。
ここは以外な盲点なので付け加えておきますね(【相関とサヤ取り】【βと共分散と相関係数の関係】参考)。
私が以前【ロングショート③(ステップ2-12.)】で申し上げた「相関係数よりもβ値のほうが重要だと思います」という意味がおわかりいただけましたでしょうか?
いろんな方のブログに目を通しましたが、価格差の相関係数が大事という発言が目立ったので違う観点から書いてみました。
※ マーケットニュートラルの本質は、「ベータ(β)を排除してアルファ(α)を取りに行く戦略」ですから、ポートフォリオ全体を市場変動リスクから相殺させるためには、β値を極力ニュートラル(中立的)に設計する必要があります。
なお、ここでいうβとは、「ベンチマークに対するポートフォリオの感応度」、αとは「ベンチマークの動きにかかわらず生じる収益」のことを言います。
※ β値をニュートラル化する作業は重要なファクターです。補足しておきますが、これはあくまでも理論上の話です。実際にロングショート戦略でβ値を「±5%以内、±10%以内」のように極力ニュートラル化しようとすると、条件に合致する銘柄ペアがかなり限られてしまいます。さらにβ値を完全にニュートラル化しようとすると条件に合致する銘柄が無くなります(改善案としては、【サヤ取り投資がうまく行かない理由①】参照)。
【コラム・その他】←ひまつぶしに読んでね♪
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