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2014年2月25日 (火)

ロングショートについてのお話 その⑦-4【クロスボーダー裁定行為について】

 

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以前、【外国為替(FX)を使ったサヤ取りは有効か?】というコラムを書きましたが、ここではもう一歩踏み込んで、今まで書いてきた内容を組み合わせたクロスボーダー裁定取引、すなわちグローバルマーケットでのサヤ取り(価格差裁定行為)について、私が理解できている範囲でまとめておきます。

ちなみに、FXのサヤ取りはいろいろ議論されているようですが、私は別にありだと思いますよ。

結局のところ、投資って商売ですから「出て行くお金」よりも「入ってくるお金」が多ければ「株式」「債券」「金利」、そして「為替」であっても、どんな対象物にどんな方法でアプローチしてもOKだと思うんですよね。

もちろん、「株式」とは商品の「本質」が違うけれども、投資家は「安定かつ継続的に」利益が出せれば、投資対象とする「商品」は何でもいいんですよ。

 

ただし。。。

 

その「価格差」や「金利差」に間違いさえなければね¬_¬。。。

 

 

【クロスボーダー価格裁定取引について】

 

裁定取引(アービトラージ)の仕組みを知ったばかりの頃は多くの方がおそらく次のように考えるでしょう。

世界中のマーケットには自分以外の誰もが気づいていない、完全に放置された状態の価格差(サヤ幅)が存在するに違いない!!」、さらに、「もし、世界中の価格差をコンピューターの計算によって弾き出すことができれば大金持ちになれるに違いない!!」、と。

実は私も昔、まったく同じことを思いつきました。夜遅くまでオフィスで研究した思い出があります。

 

で、結論から言うと、「やろうと思えばできる」と思いますが、複合要素が多すぎてメチャクチャ「①手間がかかる、②手数料がかかる」という結論です。私は今も研究中ですが、まだ実行段階には至っていません。以下にわかる範囲でまとめておきます。

 

 

【ローカルマーケット】

 

まず、通常のローカルマーケットでのサヤ取り(価格差裁定行為)を考えてみましょう。

 

 

銘柄ペア①【自動車】

【トヨタ自動車】(東京)

【ホンダ技研工業】(東京)

↑「地域」「取引所」「時差」が完全に一致するケース

Jp100_3Jp100_3

 

 

銘柄ペア②【資源】

BHPビリトン】(ロンドン・ニューヨーク)

【リオティント】(ロンドン・ニューヨーク)

↑「地域」「取引所」「時差」が完全に一致するケース

Au100Au100

 

 

銘柄ペア③【軍事】

【ロッキードマーティン】(ニューヨーク)

【ボーイング】(ニューヨーク)

↑「地域」「取引所」「時差」が完全に一致するケース

Us100Us100

 

 

銘柄ペア④【石油】

【ロイヤルダッチシェル】(ロンドン・ニューヨーク)

【ブリティッシュペトロリアム】(ロンドン・ニューヨーク

↑「地域」「取引所」「時差」が一致し「国籍」が異なるケース(ロイヤルダッチシェルはオランダ企業ともイギリス企業とも解釈されています。)

Nl100_2Uk100_2

 

 組み合わせは任意によるもの

 

 

日本から日本株の取引環境を考えると、「①取引量の大きな取引所が国内にあって」、「②日本円という自国通貨を使って」、「③国内に時差もない」わけですから、取引は非常にやりやすい条件が揃っていると思います。

世界中、どこの「銘柄ペア」であっても、「①業種」・「②上場している取引所」・「③時差」・「④国籍(可能であれば)」が「同一」あるいは「ほぼ同一」であるならば、サヤ取り投資は日本株と仕組みが同じですから、情報処理に必要なデータさえ取り込めば比較的簡単に実行できます(次に述べる「クロスボーダー取引と比較して」という意味です、決して簡単ではありませんよ!)。

 

ただし、対象とするマーケットは、流動性が十分に確保されていることが前提条件ですから、「①ロンドン、ニューヨーク、東京など取引量の多いマーケット」の、「②流動性の高い銘柄」にターゲットを絞ったほうがよいと思います。私も業務端末を叩きながらいろいろ組み合わせをシミュレーションしていますが、特に「大型株」の組み合わせは、「出来高」が揃えられずけっこう難しいです。ですから、出来高の変数は「①一定の±n%の範囲」ではなく「②一定の変数n以上」のように設定したほうがよいと思います。①でやると組み合わせ候補がほぼなくなります(泣)

それから、「新興国マーケット」、あるいは、新興国にも分類されていない「フロンティアマーケット」などは避けたほうがよいでしょう。

ここまでの原理は外国株(日本から見て)も日本の東京とほとんど同じ。

 

なお、為替レートの問題がありますが、上記の銘柄ペア①は日本のサヤ取りですから日本円でそのまま取引できます。

 

【トヨタ自動車】(東京)

【ホンダ技研工業】(東京)

 

問題は、銘柄ペア②③④です。これは日本からの投資を考えた場合、投資信託などの円建て商品を作るのと同じ仕組みとなります。

 

【ロッキードマーティン】(ニューヨーク)

【ボーイング】(ニューヨーク)

 

銘柄ペア③のケースを使って考えると、【ロッキードマーティン】と【ボーイング】のポジションが合計1万ドルであれば、1万ドルのアメリカドルの為替先物を同時にショートすることによって為替変動によるβリスクを完全に排除することができます。この場合、ポジション設計は以下のようになります。

 

【ロッキードマーティン】 5,000USDロング                           

【ボーイング】      5,000USDショート

USD/JPY】        10,000USD/JPYショート

「株式全体のポジションx10,000USD/JPYのロング)」

+「カバードポジションy10,000USD/JPYのショート)」

=為替変動によるβ値のニュートラル化

 

上記のようなポジション設計により、上記2社の価格差だけに注目した取引が実現できます。ボーイング社の株式をショートする時に必要な5,000USDは、日本から投資する場合、通貨としては5,000USD/JPYのロングと同じ意味ですから混乱しないように。

円建ての商品を購入されるときは、皆さんあまり意識してないけど、実はマーケットニュートラルの考え方を組み込んだ商品を保有しているということですね。外貨建て商品に比べて円建て商品を選択すると利回りが落ちるのは、こういった中間処理の手間と手数料がかかる仕組みだということがわかりますね。

 

なお、(日本居住者から見て)外貨建てで取引する場合は、3段目のカバードポジションは不要です。

ここで注意しなければならない点はFXを使う場合、スワップ金利の問題が生じることです。よって、日本から政策金利の高い国の取引所でサヤ取りを行う場合は注意が必要です(日本は政策金利が低いため、スワップ金利の影響をもろに受けてしまいます)。

 

そこで、上記のような取引はCFDを活用することにより、為替レートも読者のみなさんの居住国の通貨(日本であれば円建て)で取引できるため、取引環境がより身近なものになると思います(参考記事【CFD Pairs Trading】)。

ただし、今度はCFD取引によりオーバーナイト金利の問題が発生します。この点については、スワップ金利と同様に手数料と割り切って考えるしかないのでしょうかね。この点はCFDの商品設計をちょっと研究してみます。

さらに、CFDは証券会社との相対取引となるため、「出来高」の概念をどのようにクリアすればよいのか、私には現時点ではわかりません(カウンターパーティーリスク)。「出来高」はどのくらいあるのか、それとも証券会社との相対取引のため、「出来高」という概念そのものが前提条件として間違っているのか。この点についても、今後の研究課題となりそうです。



【グローバルマーケット】

 

では、次にグローバルマーケットでのクロスボーダーサヤ取り(価格差裁定行為)を考えてみましょう(どなたか以下のようなケースを研究されている方の論文等をご存じでしたら教えてくださいな)。

 

 

銘柄ペア①【電気通信業】

【ハチソンテレコム香港】(香港)

【シンガポールテレコム】(シンガポール)

↑「地域」「時差」はほぼ同一のケースだが、「取引所」が異なるケース

Hk100Sg100

 

銘柄ペア②【電子機器】

【日立製作所】(東京)

【サムスン電子】(韓国・ロンドン・ルクセンブルグ)

↑「地域」「時差」はほぼ同一のケースだが、「取引所」が異なるケース

Jp100_4Kr100

 

銘柄ペア③【空運業】

【ドイツポスト】(フランクフルト)※DHL

【フェデラルエクスプレス】(ニューヨーク)

↑「地域」「取引所」「時差」が完全に異なるケース

De100Us100_2

 

銘柄ペア④【小売業】

【モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン】(ユーロネクスト)

【ラルフローレン】(ニューヨーク)

↑「地域」「取引所」「時差」が完全に異なるケース

Fr100Us100_3

 

銘柄ペア⑤【情報通信業】

【バイドゥ】(ナスダック)

【グーグル】(ナスダック)

↑「取引所」「時差」は同一だが、「地域」が異なるケース

Cn100Us100_3

 

 

組み合わせは任意によるもの

 

 

クロスボーダー取引は裁定行為を行うにあたって4点ほど注意事項があると考えられます。

 

① 為替レートの問題

② ベンチマークの問題

③ 取引所の問題

④ 時差の問題

 

①為替レートの問題について。

 

これはすでに述べました。

 

 

②ベンチマークの問題について

 

ロングショートについて考えるとき、ベンチマークは基本的に無視して考えると説明しましたが(【ロングショート型とレラティブバリュー型】参照)、レラティブバリューについて考えるとき、必ずベンチマーク(株価指数)との相対概念が必要となります。

 

さて、ベンチマークをどのように考えるのか。

 

【日立製作所】(東京)

【サムスン電子】(韓国・ロンドン・ルクセンブルグ)

 

銘柄ペア②のケースを考えた場合、クロスボーダー取引を実行するにあたって、ベンチマークの問題が発生します。

ロングショートであれば、そのまま取引が可能と思いますが、レラティブバリューは基本的にベンチマークの問題を考慮する必要があります。

日本株と韓国株の組み合わせを考えると、ベンチマークとなる株価指数の候補には「TOPIX100」と「KOSPI100」の組み合わせが考えられます。この場合、単純に

 

TOPIX100」+「KOSPI100」÷2 = 合成ベンチマーク

 

のような単純平均とするのか、あるいは

 

TOPIX1000」+「KOSPI200」÷2

 

のような場合は、加重平均によって算出するのかを考える必要があります。

 

なお、2国間の為替レートをベンチマークとしてもよいかもしれませんね。

 

 

取引所の問題について

時差の問題について

 

上記②のベンチマークの問題もそうですが、取引所が異なると、時差の影響も受けることになります。

 

【モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン】(ユーロネクスト)

【ラルフローレン】(ニューヨーク)

 

銘柄ペア④のケースは「ユーロネクスト」と「ニューヨーク」の上場銘柄の任意組み合わせです。この場合、時差は6hです(サマータイムは5h)。

 

世界地図をご覧ください。経度と緯度があります。「経度」が同じであれば基本的に時差はありませんが「緯度」が違う場合はどうでしょう。

 

Map_of_world  

                           

世界の3大証券取引所と呼ばれる「東京」「ロンドン」「ニューヨーク」の位置関係を見れば、

 

「東京」→(9h)→「ロンドン」→(5h)→「ニューヨーク」→(14h)→「東京」

(※ただし、サマータイムは-1hとなる)

 

となっており、東京市場がクローズした直後に、ロンドン市場がオープンします。ロンドン市場がクローズする前に、ニューヨーク市場がオープンします。ニューヨーク市場がクローズした数時間後に、今度は東京市場がオープンします(なお、位置関係がわからない方は、投資の勉強をする前に地理の勉強をしてくださいねw)。

 

Forextimes

↑ロンドンとヨーロッパ逆ですね


このように、緯度が異なる市場間での取引を想定した場合、取引時間がほとんど重複しないため、たとえばロング銘柄が東京、ショート銘柄がロンドンの上場株式ですと、取引時間がズレてしまいますね。

このように、発注作業を実行する際に、「時差の問題」を考慮する必要があります。これは、②で述べた、合成ベンチマークを作成する場合も同様のことが言えます。


【バイドゥ】(ナスダック)

【グーグル】(ナスダック)

 

銘柄ペア⑤のケースは、たしかに国籍は違うものの、取引市場が同一のため、ローカル取引と同様の価格裁定行為は比較的簡単に実行できるかと思います。もちろん、アジアと北アメリカの企業のため、会社の営業時間が異なる点については注意が必要です。これは、ローカル取引として定義してもよいかもしれませんね。

 

 

なお、検証しながら上記の他にも気付いた点が5点ほどありましたので追記しておきます。

 

1つ目は、銘柄ペア②のように、日立製作所は東京証券取引所のみに上場していますが、サムスン電子は韓国だけでなく、ロンドンとルクセンブルグの証券取引所にも上場しています。アジア時間での取引が終わった後も、サムスン電子はヨーロッパでも活発的に取引が行われている点に注意が必要です。

 

2つ目は、各国によって【業種】の定義が必ずしも一致しない点です。たとえば、ドイツのシーメンス社は【製造業】となっていて、日本の日立製作所は【電子機器業】となっていて【業種】の観点から抽出処理の仕組みを作るのがけっこう大変です。

 

3つ目は、多国籍企業を組み入れる場合、たとえばジャーディンマセソン社などは本社所在地は【イギリス】、ヘッドオフィスは【香港】となっており、【地域】と【取引所】の観点から抽出処理の仕組みを作るのがけっこう大変です。

 

4つ目は、日本株の抽出処理とは違って、個人投資家のレベルでは、各国株式銘柄の信用倍率など株価データ以外の情報を取得することがけっこう大変です。

 

5つ目は、株式で取引する場合、「①為替のカバードポジションを投資家自身で設計したり、ポジションを構築する際の手数料」も発生するほか、「②日本の証券会社を使うと、外国株の手数料はかなり割高」となるため、少額で投資する場合は、「割に合わない投資」と考えられます。



【結論】

 

以上、クロスボーダー取引をするにあたっては複合的要素(様々な前提条件)をどのようにクリアしていけばよいのか?という問題があります。

 

なお、この記事を執筆するに当たり、参考になりそうなコラムを見つけましたので上記の内容に興味を持たれた方はぜひ読んでみてください(参考【自動改札機の運賃計算プログラムはいかにデバッグされているのか? 1040乗という運賃パターンのテスト方法を開発者が解説】)。

 

このように、様々に絡み合う複合要素を検証しながらシステムを設計しなければならないので、クロスボーダー取引はローカル取引と比較して非常に難しいというのが私の印象です。

 

ようは、メチャクチャ「①手間がかかる、②手数料がかかる」というお話でした。

 

以上参考になれば。

 

 

コラム・その他】←ひまつぶしに読んでね♪

 

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