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2014年1月13日 (月)

コラム その④【逆張り投資の注意点】


これまでに書いた【統計関連】のブログでは、【正規分布】をもとにして統計の話をすすめてきました(まぁ教科書どおりというか...)。

標本と推測統計】の項目では、一定数以上の標本をもとに母集団の持つ本来の姿を推測していく方法を書きました。また、【ボリンジャーバンド】の項目では、金融工学の限界について少し書きましたが、ここではもう少し突っ込んで書いてみます。

 

                                                                                                                               

【マーケットは正規分布ではない】

 

まず、「マーケットは正規分布ではない」、ということです。

 

マジでしつこいくらい書きましたがマーケットは正規分布はしません、絶対に!

「絶対」という表現は適切ではありませんが、99.9%あり得ません。考えてみてください。参加者全員が利益を奪い合う資本主義の戦場で、参加する投資家全員が協力して正規分布になるように「売り」と「買い」のバランスをとって行くことが果たして現実的に可能でしょうか?どなたか私のために損をしてくれる役割を進んで引き受けていただけますか?(笑)

 

 

【正規分布とベキ分布】

 

正規分布はあくまでも、金融モデルをわかりやすい関数に置き換えて考えるための空想の確率モデルです。だから当然、現実の世界に当てはめて考えた場合、そこには必ず誤差が発生します。というか、これはこれでしょうがないのですが、問題なのはこの「誤差」です。

 

株式や為替でも、マーケットの95%の変動については正規分布で説明できるような変動ですが、残りの5%が壊滅的な大打撃を投資家に与えてしまい、めったに起こらないと言われている標準偏差σ3でさえも遥かに上回る桁違いの変動が、この世界では数年ごとに見られます(少し前の事例としてはアジア通貨危機、ITバブル崩壊。最近の事例ではサブプライムショック、リーマンショック、東日本大震災、など)。

 

この時までは、マーケットに参加していた多くの投資家たちは、95%の確率(いわゆるσ2)ではコツコツ利益を得ていたのですが、残りの5%の大きな相場変動によって、今までの利益をドッカーーーンと一気に吹き飛ばすような莫大な損失を被ったと思います(いわゆるコツコツドカンというやつね)。

※95%の確率でコツコツ利益を得る商品とはオプションの売りのこと。

 

実は、正規分布の欠点はこの5%の部分にあります(これはボリンジャーバンドの開発者であるジョン・ボリンジャー氏も実際の説明度は90%弱であると言っていたはず)。

 

初期の金融工学では、原資産の価格変化率の分布が対数正規分布に従い、裁定機会が存在しないなどの仮定の上で、オプションの理論価格を導くことができた(ブラック・ショールズ方程式)。あくまで、数学的に扱いやすいから正規分布としている。この段階での金融工学の理論は、時間が明示的に入っているため動学的ではあるが、実際の価格変化率の分布は正規分布ではなくパレート分布(ベキ分布)に従うため、現実的なモデルとはなっていない。」(出典:Wikipedia KW:「経済物理学」より引用)

 

これは、いわゆる「正規分布」を前提としている「金融工学」に関する批判というか限界の指摘なのですが、経済物理学の世界では、金融マーケットは「ベキ分布」に従うとされています(経済物理学者たちは、正規分布よりも誤差が少なくなるという意味で「従う」という表現を使っているのだと思います、たぶんね)[1]

 

また、

 

95%を占める小さな変動は、ランダムウォークの理論に近い変動なのですが、大きなスケールでの為替の変動にはほとんど寄与していないのです。金融工学で中心的な役割を担っているブラックショールズのオプションの公式はノーベル賞の対象となり有名ですが、市場の変動を単純な確率モデルで近似して捉えているのは、この95%の小さな揺らぎの部分だけです。一番大事な大きな変動の部分をすっぽり無視してしまっていることになりますから、金融の現場では、この公式をそのまま使っている人はいません」(出典:「経済物理学の発見」より引用)

 

では、ベキ分布とはいったいどんな分布のことを言うのでしょうか?

 

 

【ベキ分布】

 

以下の分布図をご覧ください。

 

Cauchy_distribution

x0:分布の最頻値を与える位置母数、γ:半値半幅を与える尺度母数

 

これは一見すると、正規分布のようにも見えますが、これは「正規分布」ではなく、ベキ分布の一種である「コーシー分布」と呼ばれるものだそうです。正規分布とは根本的に大きな違いがあります。詳しい説明は、【期待値が定義されない理由】を読んでいただきたいのですが、標本の「中心値(μ)」や「最頻値」は存在するものの、「算術平均」や「分散」の概念が存在しません。それゆえに、データ分析を行う際、正規分布のように「分散」や「標準偏差」を算出するにはかなり強引な手法である、ということです。

 

ベキ分布のわかりやすい例としては、

 

岩石に衝撃を与えて破砕するとその破片の大きさの分布はベキ分布になることが知られています。ガラスのコップを固い床に落として割ったときに出来る破片も同じです。大きな破片はほんの数個で、中くらいの破片はかなりの数になり、小さな破片は無数にあります。目に見えないような小さな破片の数はさらに多くて、顕微鏡で拡大してみても同じような分布が観察されます。顕微鏡でも見えないくらいのほこりのような破片の数が最も多いので、1つずつの破片の大きさの平均値を求めると、事実上ゼロになってしまうのです。破片の大きさの標準偏差を計算すると、今度は小数の大きな破片の寄与が無視できなくなり、非常に大きな値になります。何桁も大きさの違う破片が混在しているのですからゆらぎの幅を表す標準偏差が大きな値になるのは当然といえるでしょう。」(出典:経済物理学の発見より引用)

 

つまり、ベキ分布では「平均はゼロの値をとり、標準偏差は非常に大きな値となる」ということです。

 

 

【まとめ】

 

以上をまとめると、『株価変動や為替変動の分布も、「ベキ分布」に従うと考えられる[2]。マーケットの変動は、小さな変動が圧倒的に多く、大きな変動は少ないものの、実際のマーケットの世界では、大きな変動は、「正規分布」の場合に比べてかなり多く発生する』といえるでしょう。

 

ということで、「サヤ取り(ロングショート)をボリンジャーバンドだけを使ってトレードエントリーをするのはちょっと考え直してみたほうがよいのでは?」という問題提起も兼ねてまとめてみました。金融関係者で無条件に「正規分布」に当てはめて説明する人を見たら、ちょっと疑ってかかったほうが良いかもしれません。金融関係者には、このような欠点も併せて顧客に説明する義務があるのではないでしょうか?

ボリンジャーバンドを逆張りで使っている投資家の方は、「バンドラインを超えたのに、移動平均線になかなか戻って来ない」という経験があると思いますが、つまるところ、ベキ分布に近い分布をする実際のマーケットでは、理論として使っている正規分布との間に誤差が生じてしまうためです。もし、誤差が小さければ、もっと勝率は高くなっているはずですからね。

 

たしかに、考えてみれば、標準偏差という数字は、正規分布に対して非常に良くできています。というより、むしろ話は逆で、「正規分布に都合よくあてはまる数字として標準偏差が選ばれた」というのが実情なのでしょうね。

そうすると、「正規分布」ではなく「ベキ分布」に従うとされる実際のマーケットでは、「正規分布」をもとに設計された金融工学の考え方でリスク・リターン分析をすること自体に、もはや限界が生じているのでは?と思ってしまいます。

 

ただし、マーケットは「正規分布」を前提とした、「金融工学」によって作られた多くの方程式によって影響を受けていることもまた事実です。その意味では、マーケット参加者が多ければサヤ取り(ロングショート)をボリンジャーバンドで逆張りに使うのも、ある意味では有効でしょう。これを全部「ベキ分布」の仕組みに作り直したら、想像もつかないけど、まぁとんでもなく大変な作業になると思います。

まず、「ベキ分布」に当てはめるもの(「正規分布」でいうところの「標準偏差」)を見つけて、「正規分布」→「標準偏差」→「分散」→「変動」→「偏差」→「平均」のように、前提条件を逆算して全部見直さなくてはなりませんからね。

 

この意味わかります?

 

「正規分布」そのものの考え方を否定してしまうと、「標準偏差」の概念はもちろんのこと、金融取引に用いられる「分散投資」「ポートフォリオ理論」など、今まで私たちが常識だと信じていた概念そのものを根底から否定することになってしまうということです。

 

で、どうするの?

 

ベキ分布には「平均」や「分散」の概念が存在しませんけど。「平均」や「分散」の概念を使わずにどうやってマーケット分析をするんだろう??それとも「平均」や「分散」の概念を前提としているマーケット分析がそもそもおかしいということ???

 

これ以上のことは、私にはわかりません。

 

 

【逆張り投資の注意点】

 

結局、私が言いたいのは、分布がどうとかいう問題は別にどうでもよくて、テクニカル分析を用いる際に(この場合は「ボリンジャーバンド」)、「逆張りエントリーの判断はσ2を抜けたからといって、必ずしも95%の確率を説明できているとは言えず、無条件にエントリーすべきではない」、ということ[3]

 

ボリンジャーバンドは通常順張りに使われる指標ですが、MACDなどのオシレーター系の指標と併せて使うのが有効といわれています。

 

これを逆張りで使う場合は、サヤ取り(ロングショート)にかぎっていえば、

 

「ボリンジャーバンドが±σ2のバンドラインを超えた場合」に加えて、

 

・「過去n日間のサヤの拡大幅が最大値に達した場合」に限りエントリー対象とする。

・「サヤの周期性が一定の条件を満たしていると判断した銘柄ペア」に限りエントリー対象とする。

 

などのように「ボリンジャーバンドは、他のアイデアと組み合わせて用いるのが現実的な妥協策となり得る」、と考えられます。

 

以上、参考まで。

 

[1] [2] 正確に言えば、マーケットは「ベキ分布」にはなりません。

[3] ボリンジャーバンドの場合、「トレンド相場」ならば「順張りが有効」で、「レンジ相場」ならば、「逆張りが有効」と言われていますが、それは結局のところ、後になって見ないとわかりません。れは間違えやすいのですが、株価が95%「収まる」のではなく、「95%」収めているといったほうが正しい表現だと思います。バンドラインは後から被せているのです。この点を理解できていないと逆張りで痛い目を見ることになります。

 

 

【参考文献・資料】

 

・高安 秀樹「経済物理学の発見」

光文社 (2004/9/18)

 

・ベノワ・B・マンデルブロ、リチャード・L・ハドソン「禁断の市場 フラクタルでみるリスクとリターン」

東洋経済新報社 (2008/6/6)

 

・マーク・ブキャナン「歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学」

早川書房 (2009/8/30)


・ブログ「ベキ分布と正規分布


・ブログ「経済物理学ベキ分布


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