コラム その①【グローバル社会と日本経済の未来について思うこと】
【グローバル社会と日本経済の未来について思うこと】
21世紀はグローバル社会、ヒト・モノ・カネ・情報が国境を越えて相互に行き来する時代。たしか小学校4年生くらいだったと思う(だから1992年くらいかな)、社会科の授業で、「近い将来、中国が巨大経済大国になる」、「NIES、ASEANと言った新興諸国(発展途上国)が経済発展を遂げて日本は追い越されてしまうかもしれない」みたいな事を先生が真顔で言っていたのを思い出す。
私は笑いながら言い返した。「そんなバカな、中国ってチャリンコ乗ってる人しかいないじゃないですか。東南アジアってエビとかしか特産品ないじゃんかw」みたいなね。
あれから20余年が経った。あの頃とは、すっかり世界が変わってしまった...
中国は2010年にGDPで日本を追い越し、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国に発展を遂げた。NIESは、韓国を例にとればSAMSUNG、LG電子などの企業が輸出額を伸ばし、日本の家電メーカーに甚大なダメージを与えた(NECの株価が98円を付けたときは株価ボード眺めながらマジで泣きそうになった)。
かつて、「東を見よ、日本を見習え!」と当時のマハティール首相がルックイースト政策を掲げたASEANの一角であるインドネシアは、今やIT起業家たちにとって、オフショア開発の重要な拠点となりつつある。
そして、香港・シンガポール。都市国家という属性を持つこれらの国家は、自国で輸出資源を持たないため、世界中から優秀な頭脳という人的資源を輸入、アジアの金融センターというサービス財を輸出し、外貨を獲得するというビジネスモデルを構築していった。ビジネススクールの設立を積極的に誘致し、そこでMBAを取得した学生に就労ビザを付与し、国内で引き続き働いてもらい、国家の発展に寄与してもらう。まさに都市国家ならではの国家戦略だなと驚くばかりだ。
今や、香港とシンガポールは多国籍企業にとって、アジアの最重要拠点となり、東京の地位は相対的に低下してしまった。また、かつては、世界の3大証券取引所といえば、東京(アジア)・ロンドン(ヨーロッパ)・ニューヨーク(アメリカ)であったが、今や香港・シンガポール(アジア)にその座を明け渡してしまったように思う。
一方、日本を見てみると、出生率の低下と医療制度の発達による少子高齢化社会の到来、それによる労働人口の減少、さらに労働人口の減少と増加する高齢者のアンバランスな比率が引き起こす年金問題など、様々な課題に直面している(まぁどこの国でも厄介な問題はあるんだけど...)。
たしかに、1980年代後半のようなバブルの時代は、株を買って長期保有しているだけで含み益が出た時代もあった。どこまでも続く一方通行の上昇相場。その波にうまく乗ることができれば、テクニカル分析の教科書どおり売買シグナルに従って売買をするだけで、極端な話、誰がやっても面白いくらいに利益を上げられる相場だ。まぁ数年ごとにありますよね、こういう相場が(2005年~2007年くらいは、投資資金を10倍、20倍に増やした投資家の方が少なからずいると思う)。
しかし、2020年の東京オリンピックが終わった後の日本の成長戦略を考えると、私は個人的に日本の株式市場全体が緩やかに下降していくような気がしてならない。長期戦略が読み取れないのだ[1]。また、外国人投資家の日本株に対する興味も低下し、取引高が減少していくように思う[2]。
日本という国は、そもそも発展途上国から資源を調達して、それらを加工して製品を作り、それに付加価値をつけて先進国に売る、すなわち「世界の工場」になることによって、サヤ取りを行い、外貨を獲得してきた国家だ。いわゆる「加工貿易」というビジネスモデルによって、経済を発展させてきた経緯がある。しかし、1973年の変動相場制の導入以来ドル円のチャートを眺めると年々、少しずつ円高が進行していることがわかる(最近は円安になっているけど。どこまで持つのかな?[3])。[4]
出典:「日本銀行ホームページ」http://www.stat-search.boj.or.jp/ssi/cgi-bin/famecgi2?cgi=$graphwnd
円高になると何が起こるかというと、モノを海外に売る時に、粗利率が減ってしまうこと、そして相対的に通貨安の国家と勝負したときに、価格競争で負けてしまうことだ。
そこで経営者は次のように考える。「安く人件費を調達するために、円と比較して相対的に通貨安の国に工場を作ってモノ作りをすれば、原価を抑えて粗利を増やすことができるようになる」、と。すなわちそれは、日本国内の工場が閉鎖され、そこで働く労働者の人たちが就業機会を失うことを意味する。言い換えれば、「失業輸入国」・「雇用輸出国」になってしまうということだ。
残念ながら将来、日本が「モノづくり国家」として再び世界の工場の地位を取り戻すことは難しいだろう。さらにこれから先、予想される人口減少は、国内のマーケットの縮小をもたらすことになるだろう。日本の企業は(内需産業も含めて)、国境・言語・文化の壁を越えて世界を相手に販路を拡大し、商売をしていくということを、もっと積極的に考えていかなければならないと思うのだ。
アメリカはかつてモノ作り国家であったが、今はその国家戦略を知的財産輸出国家にシフトしている。特許権や商標権、著作権などのライセンサーとなり、OEM契約(委託生産)によってライセンシーであるNIESやASEAN国家の工場でモノ作りを進めさせ、そのまま海外へ売ってライセンス料という名目で利益を得る。そのようにして、アメリカという国家は、自国にヘッドオフィスを構えながら[5]、遠隔操作によって遠く離れた諸外国からライセンス収益を得るビジネスモデルを構築させ、多くの多国籍企業を育んできた。
幸いにも、日本には多くの素晴らしい技術力を持った企業が数多くあり、そこで働く優秀な人材がたくさんいる。そう、名前もあまり知られることなく、業務の成果が適正に評価されず、定年間際に子会社への片道切符を受け取ることになるであろう旧態依然の仕組みの中に埋もれてしまっている優秀な人材が。そういった人たちを掘り起し、彼ら(彼女ら)を登用し、社内ベンチャーなどの仕組み作りをもっともっと活発に推進し、民間レベルでの構造改革を進めていかなければならないと思うのだ。
最後になるが、こんな言葉があったと思う。「最も強いものや最も賢いものが生き残るのではない。最も変化に敏感なものが生き残るのだ[6]」、と。生物の進化法則の中にも、企業存続の条件も見出せるのではないだろうか。
日本の政治家や企業幹部の方々が、柔軟な発想力を持ち、優秀な人材を活用して、時代の変化に取り組んでくださるよう心から願いつつ...
[1] 個人的に、メタンハイドレイトの採掘や再生可能エネルギーの活用には大いに期待しています。
[2] 私の長期予想はあまり当てになりませんがw
[3] 現在の円安になっている原因が、①「原発停止→火力発電フル稼働→化石燃料の輸入量増大→貿易赤字の発生⇒円安」にあるとすれば、原発再稼働を転換点として、「化石燃料の輸入量減少⇒円高」となりますかね。また、②「日銀による金融緩和→インフレ率2%上昇目標→2年後の達成⇒円安」にあるとすれば、2年後の金融緩和政策(継続⇒円安・中止⇒円高)が転換点になると考えられるでしょうかね。
[4] 赤:1973年の変動相場制導入後のドル円チャート、青:2010年を基準点とした実効為替レート。赤だけを見ると円高が極端に進行してるけど、青を見ると実はあまり変わってないようにも見える。でも、アメリカはドルの通貨発行量増やしまくってこの数値ですからね...
[5] 実際には、本社所在地をタックスヘイブン(租税回避地)に登記して、税率をコントロールしている企業が多い。
[6] 出典は「ダーウィンの進化論」ではないようですね。
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コメント
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お気遣いありがとうございます。
私なりに要点をノートにまとめさせてもらっています。
いつか実践でいかせたらと微かな願いともに。
株で損した分は株で取り返したい、主婦投資家です。
投稿: さつき | 2013年12月 7日 (土) 23時19分
はじめまして
とても興味深く読ませていただきました。書店の本には書いていない内容もたくさんあったので非常に参考になりました!
ありがとうございます。
大学の先生も兼任されていらっしゃるんですか?
投稿: いずみん | 2013年12月 8日 (日) 19時13分
さつきさん
少しずつ内容を修正するかもしれないので、時々チェックしていただけたら幸いです。
よろしくお願いします!
いずみんさん
はじめまして。私は先生ではないですよw
今、大学2年生のクラスのお手伝いをしてるただのヒマ人です。
よろしくお願いします!
投稿: ユーディー | 2013年12月11日 (水) 19時51分